数学者・エッセイスト藤原正彦の初期の著作。本人が、1972年から75年まで研究員、助教授としてアメリカに滞在した経験を綴っている。
この時期のアメリカは既に、Ph.D の就職難、実績作りのための論文の大量生産、人生に大きな目標や理想を見出せず、自分とその近くにあるものにしか関心がないように見える学生たち、と日本も後追いする現象が発生している。このように、本書は当時のアメリカを知る資料としても読める。
だが、この随筆の底に流れているのは、日本男児のアメリカに対するアンビヴァレントな感情である。彼がナンパしたのは、なぜ金髪娘だったのか。彼はなぜ、ユダヤ人差別に興味津々なのか。アメリカ、特に白人、キリスト教徒に対するコンプレックスのなせる業である。
最後の章で、彼は自身を振り返り、日本人であることを意識しすぎてアメリカ人に対して対抗意識を持っていた時期、日本人であることを意識の外に置こうと無理に心がけていた時期を経て、日本人として自然に振舞い、それが快く受け入れられてから、アメリカ人を真の意味で好きになったと言っている。そこには、彼らも我々と同じ旅人であるという「共感」があったらしい。
しかし、である。自分を力でねじ伏せた相手に、一方で反発しながら一方で恋してしまうというのは、言ってみればドМなのである。この卑屈な魂を文字に起こしてみせたという意味では、この男は文才があるのだろう。
歌詞が意味深。(DA PUMP『U.S.A』)