『データベース実践講義――エンジニアのためのリレーショナル理論』 C.J. Date 著 株式会社クイープ 訳 オライリー・ジャパン 発行 オーム社 発売

リレーショナルデータベースを発明したE.F.Coddの盟友にて、その理論の深化・普及に精力的に活動しているC.J.Dateによる教科書。
原題にも”for practioners”とあるが、本書は実務家に向けた理論書である。特に、データベース設計理論について、ここまで詳細に書かれている本は少ない。関数従属性とボイスコッド正規形、結合従属性と第5正規形についてきちんと理解したいのであれば必読である。どこまで正規化すればよいのかを無損失分解の観点からしっかり説明しているのも良い。
しかし、これが標準的なデータベースの教科書だと思って読み進めると面食らうかもしれない。Dateは、リレーショナルデータベースの実装のされ方、特にSQLとNullのあり方に対して大いに不満を持っているのである。氏は、頑ななるNull禁止論者であり、多値論理はデータベースに相応しくないと考える人である。彼にとって、データベースはイデアの世界なのである。人間が知る・知らないに関わらず、真か偽は決まっているのである。
この信念の強さは、情報産業がまだ若い業界だった頃、プラトニックで革新的だった頃の空気を我々に伝えているのかもしれない。Coddが初めてリレーショナルモデルについての論文を発表したのが1969年。既に存在していたネットワーク型や階層型データベースとの論争に打ち勝って、実用化を成し遂げたのである。その時代の熱気を今でも持ち続けている男がC.J.Dateである。