Pocket パンチ Oh! に連載された「若きサムライのための精神講話」を始め、雑誌に掲載された三島由紀夫のエッセイを集めたものである。例の右翼思想のようなものについても、三島自身の言葉で語られている。
「文弱の徒について」という文章では、「よい文学」とは、人間が救われないことを教えてくれて、そこで置きざりにしてくれるものであり、その文学の毒に毒された自分をなおしてくれたのは竹刀を振ってみるというような行為であったと言っている。また、福田恆存との対談「文武両道と死の哲学」では、天皇制を西洋におけるキリスト教と対比して論じている。しかし、ニヒリズムからの脱出としての絶対者という構図そのものが近代西洋的ではないのか。
「勇者とは」という所では、西洋人の頭の中にある日本男性は“サムライ”のイメージだと言っており、「お茶漬けナショナリズム」では、もう西洋を鏡にするのをよしたらどうだろうかと言っている。三島由紀夫自身がこの罠に引っ掛かっているのだ。
福田赳夫との対談「負けるが勝ち」や、前述の福田恆存との対談で、ベトナム戦争をロジカルなアメリカとイ・ロジカルなベトナムとの戦いと見なしているが、「論理的=西洋的=男性的」、「感情的=東洋的=女性的」というイメージこそ欧米に植え付けられたものだろう。
本書は、三島由紀夫研究にとっては見過ごせない貴重な資料である。