『ベルサイユのばら』 池田理代子 集英社

言わずと知れた「ベルばら」。
この作品は、従来の少女漫画と決定的に違う。お姫様が王子様に見初められて、幸せになるという話ではないからだ。ならば、これが少年漫画の男と女の役割を逆転させたものかと言えば、そうでもない。
オスカルを捉えてしまったものは、甲子園に行くというような個人的な野望ではなくて、自由・平等・友愛という何か大きなものである。アンドレはオスカルの夢に共感して彼女を支えていくのかと言えば、そういう面もあるかもしれないが、すれ違っている面もある。
オスカルとしても、自ら望んで男として生きた訳ではなく、最初は親の意向で男として育てられたという設定である。彼女が最期に望んだのは、夫婦としてアンドレと同じ場所に葬ってもらうことであった。
この作品を、女の革命家の話として読むことも可能だろうが、そう単純に還元できない奥深さがあると思う。
ジェローデルがオスカルに言い放った言葉、
“なぜ……暖かいだんろややさしいまどいに背をむけるのです”
これは、なにも女に向けられた言葉とは限らない。評者が思い出したのは、次の一節である。
“炉辺の幸福。どうして私には、それが出来ないのだろう。”(太宰治『父』)
集英社文庫〈コミック版〉全5巻セットには、本編に加え「外伝/黒衣の伯爵夫人」までが収録されている。