ロシア文学特有の語りの面白さで、文庫本にして三冊になる長編でありながら、飽きずに読める本作である。
それでいながら、やはりこの作品の底に流れているのは、「このろくでもない世界を抱きしめられるか?」という問いだろう。
カラマーゾフ家の父親フョードルの言葉“どれだけ多くの信仰を人間が捧げ、どれだけ多くの力をむなしくこんな空想に費やしてきたことだろう、しかもそれが何千年もの間だからな!”
カラマーゾフ家の次男イワンの創作「大審問官」の中で、大審問官がキリストについて語る場面“人間の自由を支配すべきところなのに、お前はかえってそれを増やしてやり、人間の心の王国に自由の苦痛という重荷を永久に背負わせてしまったのだ”
ゾシマ長老の夭折した兄の言葉“そうだ、僕のまわりには小鳥だの、木々だの、草原だの、大空だのと、こんなにも神の栄光があふれていたのに、僕だけが恥辱の中で暮し、一人であらゆるものを汚し、美にも栄光にもまったく気づかずにいたのだ”
カラマーゾフ家の長男ドミートリイの夢の中で“なぜ童はあんなにかわいそうなんだ。なぜこんな裸の曠野があるんだ”
リーザがカラマーゾフ家の三男アリョーシャに言った言葉“あたしの考えをぴたりと言ってくださったわ。人間は犯罪が好きなのよ”