奇書である。著者の建部正義はマルクス経済学の立場から金融論を研究していると明言しているし、版元は大月書店というバリバリの(?)左翼系出版社である。そういう意味では、金融論の教科書としては異端だと言えるかもしれない。
それでも、本書が初版から数えると20年以上売れ続けているのは、通説的な信用創造論に正面から挑んでいるからだろう。今でこそ、一部の教科書に載っている通説的な信用創造論が誤りであることを、イギリスの中央銀行が指摘したことは、一般にも知られるようになったが、学校で習った信用創造論に納得のいかなかった人も多いのではないだろうか?
本書は、貨幣とは何かという問いを主にしながら、銀行業務の特質、日本銀行の目的と機能、キャッシュカードとプリペイドカードとクレジットカード、電子マネー、エコマネー、デリバティブ、金融ビッグバンの実際と本質について論じている。
第2版が出版されたのが2005年なので、実務的に古くなっている所もあるが、充分読み応えのある本である。教科書に書いてあることを鵜吞みにするのではなく、本と格闘しながら何かを得たい人に薦める。
最初に、奇書であると書いたが、マルクスの最大の功績が資本主義研究であることを考えれば、マルクス経済学者が資本主義の本質に鋭く切り込むというのは、何も不思議でなくて正攻法だと言えるだろう。