ベトナム在住の日本人建築家、竹森紘臣氏と同じくベトナム在住の日本人写真家、大木宏之氏によるベトナム各地の建築の紹介。
ハノイのオペラハウスやホーチミン廟、ホーチミンのホテル・コンチネンタル・サイゴン、フエのグエン朝の建築群などの有名どころはもちろん、ソ連から輸入された団地、フランス統治時代に建設された巨大な市場や鉄橋、仏越折衷の様式やゴシック様式の教会、フレンチ・コロニアル様式とモダニズム様式が同居するハノイ駅、更には北部の少数民族の住居にも訪れている。
こうして見てみると、中国、フランス、ソ連の影響を受けながら、ベトナムの人たちが、現地の事情に合わせてモディファイしてきた、ある種のしぶとさも感じられる。特に、コンクリート製の団地に、住民たちが鉄骨で増築した「タイガー・ケイジ」と呼ばれるものは、見るからに危険であるが面白い。
そして、19世紀から第二次世界大戦末期まで続いた最後の王朝、グエン朝の都がフエであり、清そしてフランスに服従したこの王朝が莫大な富を蓄積し巨大な王城や霊廟を建築したのを見ると、支配者の手先となって栄えることの退廃性を思わずにはいられない。
歴史のうねりの中で様々な考え方を受容してきた日本も、見方によっては面白く見えるのかもしれないし、様々に変化しながら今に至るベトナムの建築群から、日本人も知恵を授かることが出来そうな気がする。