『議席配分の数理―選挙制度に潜む 200 年の数学―』 一森哲男 近代科学社

日本では、2016年の法改正により、衆議院議員選挙における小選挙区の都道府県への配分および比例ブロックの定数配分をアダムズ方式により行うことが決まった。
これは、国勢調査で判明した人口を基に各都道府県や比例ブロックに議席を配分することに当たるが、アメリカ合衆国では州の人口に比例して下院議員の議席を配分する方法についての議論が長らく続いている。本書は、その数学について日本語で読める稀有な文献である。
1票の格差問題に関心のある学生や中学・高校で社会科を教える教員は、少なくとも本書の4章までは理解しておく必要があるだろう。
本書は、歴史的経緯に添って説明がなされている面があるので、初学者にとってはむしろまどろっこしい部分がある。例えば、1.4節や2.2節では、除数方式の除数を求めることは計算機のない時代には難しかったとの記述があるが、2.3節のスライド法がその方法であることは、順を追って読んでいかないと気付かない。また、1.1節で、ジェファソン方式が90年後、ベルギーの数学者ドントにより再発見されたと書かれているが、2.4節のランク法でジェファソン方式の議席配分を求める方法がいわゆるドント式であることに気付くだろうか?
5章からは急に数学的に難しくなり、著者の提案するベストな配分方式に関する議論が展開される。その説を検証するためには、勿論、数学的な議論を逐一追っていかねばならない。