『松岡正剛の国語力 ―なぜ松岡の文章は試験によくでるのかー』 松岡正剛+イシス編集学校 東京書籍

昨年8月に亡くなった松岡正剛の最晩年の本の一つ。本人が執筆しているのは、ほんの一部で、ほとんどを彼のお弟子たちが編纂している。
ここに収録されている実際の入試問題には、難問・奇問の類はほとんどなく、素直に解けば答えに辿り着くものが多い。松岡正剛という人物のきわどさとは裏腹に、彼の文章は論旨が明快で人を煙に巻くことはあまりなく、それでいてちょっと気の利いた視点をもたらしてくれる。それが、「なぜ松岡の文章は試験によくでるのか」の答えだろう。
後半は、彼のお弟子たちが国語力とは何かという問題意識のもとに工夫を凝らした新作国語問題を披露している。本人たちも賛否両論があることは承知の上だということだが、私は、国語力を多様に捉える試みが、何でもかんでも学校による評価の対象にしてしまうことを危惧する。それと、子供の世界は誰にどこまで自分を開示するのか、とても繊細である。教師と生徒、生徒間の信頼関係が出来ていないと難しい問題があると感じた。
冒頭に「AI時代の国語力」という松岡による短い文章があるが、この点については彼の提唱した編集工学は完全に時代に追い越されてしまったと言わざるを得ない。現代の人工知能は、人間がひとつひとつプログラムしているのではなく、プログラム自体が確率的に変化しながら膨大な数の稽古を積んで強くなっているのだ。これが生物の進化とどう違うのか、難問が残された。