『新装版 さとりと日本人 食・武・和・徳・行』 頼住光子 ぷねうま舎

本書は、思想史研究者の頼住光子の論文・口頭発表などを、ぷねうま舎の編集者が「さとりと日本人」というくくりで一冊の本にまとめたものである。
先ず、「さとりと日本人」と聞いて思い浮かぶのは、日本の仏教は中国を経由して伝わったものであること、修行を通じて悟りを開くことよりも死んで仏になることが重視されていることなどである。これをもって、日本の仏教は本来の仏教からは変容したものであると見ることも出来る。
しかし、著者の言うように「縁起-無自性-空」というキーワードを通して、日本人なりの「さとり」のエッセンス、日本人の仏教観を抽出することは可能だろう。
その中でも、武士の道徳の「無私」は「私」の貫徹が目的である以上、仏教との齟齬が生じざるを得ないという著者の主張は興味深い。武士の家系だった法然の出家に至る伝記や、平家物語における平重衡の受戒にその葛藤が見られると言う。
近世になると、俗人に対してはそれぞれの職業生活に励むことが仏道であるという教えが主流になる。盤珪は、武士が務めとして行う戦いは殺生ではないと言う。
和辻哲郎が日本思想に見出す「間柄的存在」の「無私」と「共生」が、表面的にとらえられた場合の無批判的、排他的傾向については、本書では触れられてはいるが、深追いはされていない。これについては、著者の他の著作に当たってみる必要がありそうだ。