建築の意匠(デザイン)を、その技術的な要請から読み解こうという書物。
古代から始めて、様々な地域の建築の様式と考えられて来たものが、いかに雨風をしのぐか、壁に開口を設けるか、耐用年数を延ばすかという工夫の結果として現れたのかを考察している。
特に、ゴシック様式の特徴とされる尖頭アーチのヴォールトが、その前の時代のロマネスク様式の半円交差ヴォールトの不安定さと不自由さにに対処する工夫として現れたという説や、クメール建築の四方に前室を設けた塔状祠堂が、迫り出し構法で作られた塔の外側への倒れ込みを抑えるための工夫に由来するという説は、説得力があり興味深い。
その一方で、古代エジプトの柱頭が梁の変形を抑える目的から考えると意味がなく、装飾であったと思われる事例が、第Ⅱ部の終わりのほうにおまけのように載っていたり、自説に有利な例を強調している感も否めない。
終章にあるように、元来自然の脅威に対抗するための工夫だったものが様式として定着すると、その由来については次第に意識されなくなり、様式が守られるようになるという現象は世界各地に共通する。
それは、ギリシャ人の様式を模倣したローマ人、古代ローマに学んだルネサンス建築にも、日本建築における桔木の発明や、垂木割の計画技法である枝割制の成立にも見られると言う。