『自然・人類・文明』 F. A. ハイエク、今西錦司 NHKブックス、NHK出版

ノーベル賞を受賞した経済学者 F.A.ハイエクと京都大学名誉教授で生態学者の今西錦司の1978年の対談を収録した本。
田中清玄自伝』によれば、彼自身がこの対談をセッティングしたことになっているが、『自然・人類・文明』には田中清玄の名は出て来ない。やはり、昭和史において田中清玄は触れてはいけない存在だったのだろうか?
本題に入ると、今西はダーウィニズムに対して「結果論的にみて、生存したものはすべて適者であるというのは、論理の逆立ちである」と言っているが、「結果論的に生存したものが適者である」というのはダーウィニズムに対する正しい理解に見える。その一方で、彼が個体に甲乙がないと言った場合、甲乙を人間の基準で考えているように見える。
ハイエクが人間社会の進化について語る時、あるルールを偶然に採用した結果がうまくいったからそのルールが残ったというのは、現象を説明する理論としては成立するが、よい社会とは何かを語る上では無力である。
もし、よい制度が生き残るのだと言ってしまうと、ある文明が別の文明を自分たちより劣っていると判断して滅ぼすことを容認してしまうことになりかねない。その最たるものがナチズムであり、これが、今西がダーウィニズムに対して警戒心を持つ最大の理由ではないだろうか?