『丹下健三建築論集』 豊川斎赫 編 岩波文庫、岩波書店

二十世紀を代表する日本の建築家、丹下健三の著作集。
彼は、モダニズム建築家に分類されることもあるが、本書を読むと、既に二十世紀の半ばに近代主義をのりこえることが模索されていたことがわかる(「サンパウロ・ビエンナーレ展の焦点」)。
また、建築家という職業身分の歴史的な成立について自覚的なところも面白い(「日本の建築家」)。彼は、封建社会から市民革命を経て資本と労働という二つの階級が出来上がる間に、中間層としての市民層が存在した時代に、建築家も自由な市民の一人として存在したと言う。
当時の丹下は社会主義にシンパシーを感じていたらしいが、二十一世紀の現在から振り返ると、資本主義社会も社会主義社会も中央集権化と画一化を特徴とする近代主義であり、そのような近代社会で建築家の最大の顧客は国家や大企業や一部の富豪である。近代社会で成功した建築家である丹下健三も例外ではなく、彼の主な作品は公共施設であり、その意味ではやはりモダニズム建築家の一人なのである。
「無限のエネルギー:コンクリート」では、コンクリートの持つ可能性について楽観的な立場が表明されている。それでも、意外にためらいがちというか、当時まだ新しい技術であるコンクリートの可能性に期待している。この強気と弱気を垣間見れるのも面白い。