『数学は世界を解明できるか カオスと予定調和』 丹羽敏雄 中公新書、中央公論新社

本書は、ダイナミカル・システムとカオスに関する優れた入門書である。各章にはまとめがあり、理解度を確認しながら読み進めることが出来る。
科学は、対象をシステムとして捉え、その数理モデルを構築することで研究する。プトレマイオスの天動説に始まり、ガリレイ、ケプラー、ニュートン、マクスウェルの輝かしい成功により、機械的世界観と決定論的世界観は支配的なものになった。
カオスは、この決定論的システムが産み出す不確定現象である。ここでは、現象の数値化が近似的にしか得られないという事実が大きな役割を果たす。あくまでも数理モデルを構築して研究するという手法が、従来の科学が強固にした決定論的世界観に疑問を投げかけることになった。
改めて振り返ると、本書の題名は「数学は世界を解明できるか」である。著者は、ピタゴラスに訪れた「世界は数でできている」という直観が異常にクローズアップされたのが、科学技術の歴史だと言う。そして、それは世界の一面に過ぎないのだと言う。
著者の丹羽敏雄は、ルドルフ・シュタイナーの仕事を日本に紹介していることでも知られる。「世界は数でできている」がひとつの思想であるように「世界は霊的なもので満ちている」という思想があっても不思議ではないが、数理科学者であった彼のシュタイナーへの傾倒ぶりもまた、あまりに即物的に見えるのだ。