『クイーン・オブ・ザ・サウス』

今回取り上げるのは、2016年〜2021年に米USAネットワークで放映され、世界中で人気を博した「クイーン・オブ・ザ・サウス」。日本ではNetflixやU-NEXTなどで見ることができる。

本作は、メキシコの貧しい街で育った両替商の女性テレサが、恋人の死をきっかけに米国へ逃れ、麻薬カルテルの組織の一員として生き残り、登り詰め、やがて「女王(Queen)」と称されるようになっていくという物語だ。

このドラマが世界的に評価されている点は主に3つあると言われている。

1、魅力的な主人公の成長・変化

主人公のテレサは、貧しく理不尽を強いられる被害者の立場から、麻薬カルテルの組織の一員となり、自分の意思で変化し、帝国を築き、大きく変化・成長する。

2、ラテン系女性の新しい描写

しばしばアメリカドラマではこれまで、ラテン系のキャラクターはステレオタイプ(ラテン系=情熱的・暴力的・野蛮・性的・貧しい等)で描かれてきた。しかし、主人公のテレサは「情熱的で感情的」ではなく、むしろ冷静で戦略的。また、彼女の成功は「男性に頼る」ことではなく、「自分で意思決定し、リスクを取る」ことによる。暴力は使うが、目的は“支配”よりも“生存”や“自立”。彼女の美貌よりも、知能・戦略・ビジネスセンスが前面に出る。

つまり、ドラマは「ラティーナ=セクシーで感情的」という従来の型を反転させ、ラティーナ=知的で冷徹な経営者という新しい像を提示した。

3、アクション・サスペンス性

“カルテル”ものという枠組みながら、登場人物の駆け引き、裏切り、緊迫した展開などが速いテンポで展開され、エンターテインメント性がある。

が、私がこのドラマを通じて最も感じたのは、世界の人々にとって「ドラッグ」がこれ程までに生活に必要不可欠な存在になっている、ということだ。もちろん、これはドラマでかなりデフォルメされているものの、女王テレサの良質な麻薬の市場はメキシコ、アメリカ、ヨーロッパへとどんどん広がっていく。

1972年に公開され、第二次世界大戦後のアメリカニューヨークのイタリア系マフィアを描き大ヒットした映画『ゴッドファーザー』では、初代ゴッドファーザーであるドン・コルレオーネ(マーロン・ブランド)でさえ、そして、その後を継いだマイケル・コルレオーネ(アル・パチーノ)も麻薬にだけは手を出さなかった。それくらいつい数十年前まではマフィアのドンが麻薬にだけは絶対に手を出さないくらい「やばい代物」だったのだ。

しかし、今やゴッドファーザーの時代から世界は大きく変わった。

私が以前、この連載でも取り上げた近年のアメリカの大ヒットドラマ「ユーフォリア」でも、アメリカの郊外に住む10代の若者たちの生き辛い人生の苦しみからくるドラッグへの依存などがリアリティを持って描かれて、多くのアメリカのZ世代の共感を得た。

大麻とその他ドラッグは切り分ける必要があるかもしれないが、アメリカでは現在(2025年)、24州+ワシントンD.C.+グアム+北マリアナ諸島+ヴァージン諸島で大麻が合法化しているし、大麻の使用・所持・販売を「合法化」または「大幅に非刑罰化」している国も世界中で増えてきている。

もちろん、このドラマのように、世界的なカルテルが日本で生まれる、といったことは恐らくないかもしれない。しかし、戦後、多くの現象がアメリカの後を追って遅ればせながら日本で起こっていった。例えば、戦後の専業主婦の増加、バブル崩壊後の専業主婦の減少、離婚率の上昇、核家族化、少子化、シングルマザーの増加、経済格差の広がり、フェミニズム運動、LGBTQへの関心の高まりも全てアメリカに遅ればせながら日本で起こっていった。

そうしたことを考えると、このドラマで描かれていたこれ程までの麻薬へのニーズが、最近でもゾンビタバコの普及が話題になるなど今後、日本でも高まっていく可能性は大変残念ながら十分にある。

事実、2022年に日大アメリカンフットボール部(日本大学フェニックス)の部員が、乾燥大麻片を所持していたとして逮捕・起訴されたという報道が出たが、直近では2023年、大麻事犯の検挙人員が6,703人と、過去最多を更新。このうち、30歳未満の若年層が占める割合は約72.9%と若年層での比率が非常に高まっている。

麻薬とは必ずしも直接関係はないが、2024年の小中高生の自殺者は、統計のある1980年以降最多の529人に上り、10代および20代の自殺死亡率はG7各国の中で最も高い。

もう長らく経済成長が見込めず、物価や税金が上がり、閉塞感に覆われ、特に若者が生き甲斐を持ち難くなってしまっている成熟社会病の日本。

女性初の首相が生まれた今、日本で「ユーフォリア」に登場するようなドラッグに依存するしか現実を生きられない若者が増えないよう、「クイーン・オブ・ザ・サウス」のように麻薬カルテルの女王の市場が日本にまで拡大されることがないよう、この国に新たな希望が生まれることを願いたい。こんなことも考えながらこのドラマと「ユーフォリア」をご覧頂きたいと思う。