中島らもによる長編小説。アフリカにおける呪術医の研究をする大学教授の大生部は、テレビ番組の一環として八年ぶりにケニアを訪れる。そこで起きる事件の数々。呪いは存在するのか? トリックなのか? 暗示なのか? そんなことを読者 […]
『世相』 織田作之助
終戦直後に書かれたこの作品は、もちろん創作であるが、私の知らない時代の世相を映し出しているのだろう。ここで描かれる世相は、隙間風の吹くような寒々としたものだが、何かとても正直な「やらかした」感があるような気がする。織田作 […]
『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』 大江健三郎 新潮文庫、新潮社
三つの短篇と二つの中篇からなる作品群。夏目漱石は『現代日本の開化』で、外発的な開化の影響を受ける日本人は「空虚の感」がなければならないと言ったが、原爆を落とされてアメリカに追従しなければならない戦後日本人は、「狂気」がな […]
「不良とは、優しさの事ではないかしら。」
「不良とは、優しさの事ではないかしら。」これは、太宰治『斜陽』の中の言葉である。この言葉から受け取る印象は、様々であって当然である。曰く、「昔ヤンチャしてたことを自慢をする大人は痛い」とか「不良が更生したら褒められるのに […]
『勧善懲悪』 織田作之助
タイトルの「勧善懲悪」は、坪内逍遥が小説は勧善懲悪を目的とするものではないと言ったことに対する軽い反発もあるかもしれないが、ともかく、戦隊ものや時代劇の水戸黄門のような正義のヒーローものとも、また違うのである。“想えば、 […]
『男女同権』 太宰治
『だめんず・うぉ~か~』の発表以来、ダメな男(だめんず)という言葉は、倉田真由美の専売になったような趣があるが、それより半世紀以上前、ダメな男について書かれた傑作が存在する。それが、太宰治の『男女同権』である。文字通り「 […]
『鏡子の家』 三島由紀夫 新潮文庫、新潮社
鏡子という、家持ちの離婚した女の家に集まる青年たちを描いた小説である。収は俳優、夏雄は画家、峻吉は拳闘家(ボクサー)、清一郎はサラリーマンである。この小説は、1959年に発表されており、三島由紀夫が学生運動にちょっかいを […]
『悪霊』 ドストエフスキー 江川卓 訳 新潮文庫、新潮社
あらすじは、左翼の内ゲバみたいなものなのだが、この小説には、「生きる意味系」の問題にそれぞれの決着を付けようとする人々が登場する。その中でも、評者はキリーロフという若い技師に注目した。彼は、一見ロジカルに自殺を結論し、し […]
『カラマーゾフの兄弟』 ドストエフスキー 原卓也 訳 新潮文庫、新潮社
ロシア文学特有の語りの面白さで、文庫本にして三冊になる長編でありながら、飽きずに読める本作である。それでいながら、やはりこの作品の底に流れているのは、「このろくでもない世界を抱きしめられるか?」という問いだろう。カラマー […]
『告白』 町田康 中公文庫、中央公論新社
実際にあったという「河内十人斬り」事件を題材にした小説。ここで描かれる城戸熊太郎は、世界と自分、言葉の齟齬に悩む人物で、何かと歯車が狂って、犯罪に手を染め、極道者になってしまうのである。これは、『パンク侍、斬られて候』で […]
『パンク侍、斬られて候』 町田康 角川文庫、角川書店
町田康の作品を批評するのは、野暮なのだろう。もっともらしい解釈をしてみても、そんな予定調和をひっくり返すのが PUNK だという気がするからだ。でも、敢えてその野暮をやってみようと思う。『パンク侍、斬られて候』にしても、 […]
『小説と〈歴史的時間〉――井伏鱒二・中野重治・小林多喜二・太宰治』 金ヨンロン 世織書房
本書は、日本文学研究者による、研究の新たな方法論の試みである。著者は、これを〈歴史的時間〉と名付けているが、この理論の提出の背景には、カルチュラル・スタディーズ、ポストコロニアリズムといった方法論における、問題意識の薄れ […]