誰に聞いても「面白い」と答える。誰に聞いても「見に行きたい」と言う。私がテレビで共演する芸能人たちの多くも業界関係者もこぞって「面白い」か「見に行きたい」のいずれかしか言わない。こんなに前評判の高い映画は久しぶりだと胸ときめいて先日観に行ったのが映画『国宝』だ。
観た結果、大変残念ながら、私にとってはとてもつまらない映画だった。同時に、日本映画の閉鎖性と未来のなさを強く感じることとなった。
確かにこの映画の映像美は凄く、主演の吉沢亮さんも横浜流星さんも実際の歌舞伎役者の演技指導の下、かなり練習されたことが想像される、凄まじい演技力だったことは確かである。
が、この映画は3時間でとにかく長い。実は現代・日本人だって直接歌舞伎を見たことがある人はマジョリティとは言えないだろうに、まして世界の人にとっては苦痛でしかないだろう。
「歌舞伎」という超ドメスティックな極めて日本的な題材なので、余程の工夫がない限り(そして特に工夫はない)、世界の人にこのテーマでこれだけの時間を拘束するのは難しいだろう。
それから物語が非常に単純だ。
この映画のテーマは、「血縁VS外部の者」というものだ。このベタなテーマは、過去にもたくさん描かれている。
例えば、日本映画で言えば、『しとやかな獣』(1962/川島雄三)は、家制度の外部者が血縁に嫉妬し、利用し、裏切る、という物語。『八日目の蝉』(2011/成島出)も他人の子を誘拐して育てる女と、実の母の葛藤を描いている。『御法度』(1999/大島渚)でも、「血縁でない者が才能と美しさで寵愛される」ことへの反発。
海外映画でも、『アマデウス』(1984/ミロス・フォアマン)では、モーツァルト(“神に選ばれた才能”)に対して、血統も名門も芸も持たないサリエリが狂気の嫉妬をする。『キング・オブ・コメディ』(1982/マーティン・スコセッシ)でも、“スターの座”は世襲的で、外部者が排除されることへの怒りを描いている。
『グッド・ウィル・ハンティング』(1997)でも、天才だが育ちが悪い青年(ウィル)と、名門家庭の人々との軋轢。『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)でも、スラム出身の少年が、教育や血縁に頼らずクイズ王になる物語。
要は、古今東西、よく使われるベタでありきたりなテーマを、歌舞伎という世界の多くの人が知らないドメスティックな世界で3時間という長時間で表現したのがこの『国宝』だ。
事実、映画『国宝』はカンヌ映画祭に出品はされたものの、何も受賞できずに終わっている。
この映画を見終わった時に、私が思い出したのは、ネットフリックスの人間から言われた一言だった。
「日本で作ったドラマって世界ではウケなくてコスパが悪いんです。」
確かにネットフリックスオリジナルで作られた日本ドラマを思い返してみると、『全裸監督(AV監督の村西とおるを描いた物語)』『浅草キッド(ビートたけしの若い頃を描いた物語)』『ジミー(ジミー大西と若い頃の明石家さんまを描いた物語)』『サンクチュアリ(相撲取りを描いた物語)』『地面師たち(過去にあった不動産詐欺を描いた物語)』『極悪女王(1980年代の女子プロブームを描いた物語)』など、どれも日本では大ヒットして話題になったが、どれも『国宝』同様、日本の中年にしか理解できない大変ドメスティックなテーマで、世界では全くウケていない。
それどころか、日本のおじさん・おばさんのノスタルジーを駆り立てるものばかりで、ほぼZ世代を中心とする日本の若者たちにさえウケているとは言えない。
一方、世界で大ヒットしたネットフリックスの韓国ドラマでは、『愛の不時着(2019)』(脱北問題や南北分断という重いテーマをラブコメとして描き国際的にヒット)、『イカゲーム(2021〜)』(多額の借金を抱えた人々が賞金をかけた“命がけのゲーム”に挑む物語。Netflix史上最多視聴(初月1億1100万世帯)、エミー賞を受賞(非英語ドラマで初)、『地獄が呼んでいる(2021)』(突如現れる“地獄の使者”により、人間が死を宣告される異様な社会を描く。イカゲームに次ぐ勢いで一時世界ランキング1位)、
『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌(2022)』(自閉スペクトラム症の若き女性弁護士が成長していくヒューマンドラマ。アメリカ、フランス、東南アジアなどで人気)、『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~(2022–2023)』(いじめ被害者が大人になり、復讐を遂げていくスリラー。高い脚本力と復讐劇の美学が海外でも話題に)、『涙の女王(2024)』(冷徹な財閥令嬢と、田舎育ちの夫との“再生の夫婦愛”を描く。韓国国内歴代視聴率トップクラス。Netflix世界ランキングでも1位獲得)、『セレブリティ(2023)』(インフルエンサーの世界での裏切り・競争を描く。現代的テーマ(SNSと名声)で世界のZ世代を中心に人気)など、たくさん挙がる。
世界でヒットしている韓国ドラマも、例えば、イカゲームであれば昔の韓国の子供の遊びを描くなど、韓国の超ドメスティックなモチーフを使用しているし、テーマも決して深くないベタなもの(例えば、イカゲームであれば「借金苦」など)である。
が、国策も含め(韓国では海外で自国のドラマが売れると補助金が出る)、向いている先は海外の視聴者の目線であり、少なくとも『国宝』のように、何の説明もなく「曽根崎心中」を流したりはしていない。3時間も説明もなく、工夫もなく、歌舞伎の世界を描くのは、海外の人のみならず、多くの日本人にとっても耐え難いものとしか言いようがない。
歌舞伎をほとんどの人が詳しく知らない日本において、「知っておかねば恥ずかしい」という日本人の心理をを突き、堂々と長時間、ドメスティックなテーマを垂れ流したこの『国宝』は、カンヌなど海外で賞を受賞できないどころか、上記した日本独自のネットフリックスコンテンツのように、一部の日本人中年層に喝采を浴びる島国コンテンツと言えるだろう。
アジア人がメジャーで(しかも二刀流で!)ホームラン王を獲ることなど永遠にあり得ない、、、、そんな常識を軽々と超えた大谷翔平選手のように、人口の多い日本の中年層を喜ばせるべく作られた映画・ドラマではなく、これまでの発想にはない革新的なコンテンツが日本で生まれることをただただ願うばかりである。
