『父と子』 ツルゲーネフ 工藤精一郎 訳 新潮文庫、新潮社

手元にある山川出版社の『倫理用語集』によれば、「ニヒリズム」という言葉は、ツルゲーネフの『父と子』で用いられて一般化したらしい。そのような先入観で、『父と子』を読み始めたものだから、どれくらい殺伐とした物語なのかと思っていたのだ。
だが、これは題名の通り、「父と子」の物語である。
この話に登場する父と子を挙げてみると、まずはニコライ・ペトローウィチとその息子アルカージイ、ワシーリイ・イワーノウィチと息子バザーロフである。
そして、バザーロフに対して旧世代の代表として振る舞うパーヴェル・ペトローウィチ、アルカージイやシートニコフに対して師のように振る舞うバザーロフ。ここにも「父」を見ることができる。
さらに、パーヴェルが言うように、農村共同体における家長制度も「父と子」である。
物語の後半で、アルカージイはバザーロフの影響から離れて、結婚し、実際に父になる。それに対して、バザーロフやパーヴェル・ペトローウィチは、父になり損ねた男と言える。特に、バザーロフは、永遠に反抗する子供のままで生涯をとじてしまう。
重要な「父と子」がもうひとつある。神と人間の関係である。イエス・キリストは、地上の権威にはことごとく反発したが、「天にいる父」すなわち神を求めた。
バザーロフは、最後まで一切の権威を否定し続けた。それが、彼がニヒリストたる所以なのであろう。

当サイト編集長。 エンジニア、デザイナー、物書き、編集者、アマチュアギタリスト。

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