『岡林、信康を語る』 岡林信康 ディスクユニオン

“フォークの神様”ともてはやされた歌手、岡林信康の自伝的インタビュー集。インタビューは、東京編と京都編、ともに2010年のものである。
これは、キリストごっこから生還した男の物語である。「山谷ブルース」でデビューして、左翼系の人たちから熱狂的に支持され、怖くなって逃げた(当時は「蒸発」と言った)。「このままいくと磔になるぞ」と思ったのである。
その後、ロックをやり、田舎に引きこもって農業をやり、美空ひばりに演歌を書き、ポップスをやり、日本独自のロックを追究し、断食をし、「エンヤトット」という岡林独自の音楽を作り出し、と流転していくことになる。
なにしろ、少年のころから魂の遍歴っぷりが良い。農家出身の牧師を父親に持ち、幼稚園から中学までミッションスクールで、一時期、鳩の飼育に熱中する。公立の高校に馴染めず引きこもり、キリスト教にのめり込み、その後、山谷に行って政治にはまり、さらに左翼が嫌になって失踪したのである。
この人は、ギリギリのところで正気に戻って変貌を繰り返したからこそ、長生きしているのかもしれない。
インタビュー時点で60代中頃の岡林信康は、憑き物が取れたように穏やかである、と言いたいところだが、ピリピリした部分もしっかり残っている。本人も「結局根本は何も変わってない」と言っているし。