『漱石文明論集』 三好行雄 編 岩波文庫、岩波書店

夏目漱石の講演、評論、日記、書簡などから、文明論に関係ありそうなものを収録した本である。
当時、著名人を招いての講演会が既に行われていたというメディアの発達ぶりには驚かされる。と同時に、語られている内容が現在でも通用することも驚きである。
『現代日本の開化』で、漱石は、日本の開化は「外発的」であり、皮相上滑りの開化であるとさえ言う。西洋との接触で、無理やりに新しい波に飛び付いて行かなければならない日本人は、「空虚の感」がなければならないと言う。この講演では、漱石は、これをやむをえないと言っているのだが、第一高等学校で行なった『模倣と独立』という話では、個人でも国家でも、模倣から入ったとしても如何に独立に至るかということが主題になっていると思う。
学生の前で行った講演では、漱石の個人的なことも述べている。学習院で行われた『私の個人主義』では、大学で英文学を専攻したものの不安を抱いたまま教師になり、英国に留学し、「自己本位」に到達するまでの煩悶が語られている。また、東京高等工業学校で行われた講演では、昔、不愛想でも金がとれるだろうと思って建築家になろうと思ったが、親友に諭されて文学者になったことを述べている。そして、その結果は死ぬまでわからないとも言っている。
このあたりは、将来の進路を考えている現代の高校生などに読んでもらっても響くものがあるだろう。