『ART OF LIFE』 X JAPAN

一曲が30分近くする大作。
前回、大江健三郎の『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』について書いたとき、この表題に最も答えようとしていると思われる中篇『父よ、あなたはどこへ行くのか?』には触れなかった。
「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」という問いに最もよく答えているのは、X JAPAN の『ART OF LIFE』だと思うのだ。
「I believe in the madness called “Now”」
「Tell me why I want the meaning of my life」
実は、この曲は生きる意味には答えていない。むしろ、問いかけている。それが、救いの作用を持つのは、我らの狂気をともに疾走してくれているからだろう。

中盤のピアノソロが、静かな狂気をこれでもかというくらい体現している。寄せては返す旋律の不調和が次第に大きくなり、修復不能なところまで来て、ついには破綻する。YOSHIKI はドラムに移動し、そこから後半のパートが始まる。狂気から生還したのだろうか? いや、生きている限りは逃れられない狂気を全力で駈けぬけているとしか思えない。
『父よ、あなたはどこへ行くのか?』にも、主人公が息子と斜面を駈け降りるシーンがある。しかし、大江健三郎の書くものは、私の心に沁みて来なかった。その理由を長々と書くことは、興醒めなので止めておくが、彼の文章が美しくなかったとだけ言っておこう。