『太宰婚〜古本カフェ・フォスフォレッセンスの開業物語〜』 駄場みゆき 著 パブリック・ブレイン 発行 星雲社 発売

三鷹で古本カフェ「フォスフォレッセンス」を経営している駄場みゆき氏による開業物語。
カバーに大きく「太宰婚」と書かれているように、禅林寺の桜桃忌でのご主人との馴れ初めも語られている。そして、何とお二人の若いころの写真も。たしかに、ご主人 HYDE 似ですよ!
太宰治つながりでの結婚そして古本カフェ開業。羨ましい限りである。本書には、ロマンチックな面だけでなく、開業に関する地味で具体的な話も載っている。個人事業主やひとり社長で起業したい人には、参考になるのではないだろうか。
お店の経営は、大変なこともあるらしい。閉店や移転の危機もあったらしい。しかし、しんみりした話の途中で、絶妙な周期で入って来る笑い話。「鬼電」の件も、ビルの名前を決める時の「なんか中二病っぽい」に対する「どこが? 何を今更?」も面白かった。書き手の才能を感じる瞬間である。事業を行う上でも、危機を物語に変えてしまう発想の転換は重要かもしれない。
太宰治ゆかりの人物や土地に関する記述も散りばめられていて、文学好きには再発見のある書物である。読んでみたい物、行ってみたい場所が増えた。
何より、十七年間、小さなお店を続けていらっしゃることには、頭の下がる思いである。自分の中で、その時が来たら(という表現は著者にはわかってもらえそうな気がする)、訪れてみたいと思う。