『市民科学者として生きる』 高木仁三郎 岩波新書、岩波書店

原子力資料情報室で知られる高木仁三郎の著作。死期が迫る中で書かれたからだろうか、他の著作と違って、著者の個人的なことも語られている。
敗戦を迎えた少年時代、受験優等生だった高校生の頃、東大に入ってからの幻滅、化学の専攻と進んで、60年安保闘争の時の化学科の教官たちの発言に疑問を感じながらも勇気が出せずに発言できなかったこと。原子力産業への就職、その業界自体の目指すもののあいまいさ、グレン・シーボーグの著作に対する一抹の違和感、会社に期待されていない研究をした時の居心地の悪さなどが記されている。
原子核研究所へ転職し、宇宙核化学の研究に移ったのは、企業内の人間関係からの解放と同時に原子力について社会的にどういう態度をとるべきかという問題からの解放もあったという。その後、都立大助教授と進むにつれて、本人の中の矛盾が大きくなり、一年間の海外留学を経て、遂に大学を辞め自前の科学をすることになる。
本書では、高木自身が言うには、父親には知的能力を期待されていなかったこと、原子力資料情報室の方向性について武谷三男に反論して、まわりの人にとりなしてもらったことなど、生々しい話も載っている。
また、高木は「見る前に跳べ」方式でやって来たというが、これもまた日本の原子力産業と同じで、いかにも20世紀的な方法論だと感じる。そのような相対化が出来るという意味でも、本書を読む価値はあるだろう。