『勧善懲悪』 織田作之助

タイトルの「勧善懲悪」は、坪内逍遥が小説は勧善懲悪を目的とするものではないと言ったことに対する軽い反発もあるかもしれないが、ともかく、戦隊ものや時代劇の水戸黄門のような正義のヒーローものとも、また違うのである。
“想えば、お互いよからぬことをして来た報いが来たんだよ。今更手おくれだが、よからぬことは、するもんじゃない。”最後のほうで、こう語られるこの物語は、何とも木枯らしが吹くようで、人間という存在のおかしさを見事に描いている。
語りの主は、古座谷某。語られるのは、川那子丹造。この、エセ週刊誌記事のような手法も絶妙に面白い。
川那子丹造が、元新聞社のお抱え俥夫から自分で怪しげな新聞社を起こし、そこから様々な怪しげな事業を起こしては潰していくのだが、未承認薬のチェーン店など現在でもありそうである。
また、「船場新聞」の船場娘の美人投票とか、「川那子丹造の真相をあばく」が出版された時、本人が必死になって買い取ったとか、実際に新聞社で働いていたことのある織田作之助ならではの、業界あるあるなのかもしれない。
現在でも、マスコミ業界というのは、いわば訳ありな人も拾ってくれる、ある種の懐の深さと怪しさが同居している。それを、こういった諧謔にしてしまう織田作之助の手腕を存分に楽しむことが出来た。