『田中清玄自伝』 田中清玄、大須賀瑞夫 ちくま文庫、筑摩書房

田中清玄をご存じだろうか?
田中清玄は、戦前の非合法時代の日本共産党の書記長まで務め、逮捕され、獄中で右翼に転向した。刑務所を出てからは、龍沢寺の山本玄峰の下で修業、戦後は土木事業をやったり、反共活動をやったり、タイの復興、インドネシアの石油の利権などに関わった。
本書は、大須賀瑞夫から田中清玄へのインタビューで構成されている。全学連への資金提供や田岡一雄山口組組長との付き合いについても質問がなされ、田中も答えてはいるが、真相に迫ったとまでは言えない。
逆に、田中清玄が嫌悪を示す場面から、彼がどのような存在だったのかを垣間見ることが出来る。立教大学総長松下正寿が奥さんの旅費を松下幸之助に出してもらいたくて田中清玄に頼んできたとか、嶋中事件で右翼を抑えてくれと福田恆存を通して中央公論社に頼まれたというのは、田中清玄は脛に傷持つ身なのだから、立場ある人間が大っぴらに動けないところを代わりにやってくれてもいいじゃないか、と思われていたということだ。
また、彼が、児玉誉士夫や瀬島龍三を毛嫌いするのは、彼らと同類の黒幕的存在と見なされるのを嫌がった、つまりはそう思われていたのである。
それでも、田中清玄には「思想」があり、話も面白く、行動力もあり、何かしらの魅力のある人物だったのだろう。そうでなければ、スハルトや鄧小平、ハイエクなどと深く付き合うことは出来なかったはずだ。