『ごめんよ涙』 田原俊彦

こちらも、男闘呼組の『DAYBREAK』に負けず劣らず正統派のアイドルソングである。
男は、自分の夢のために、別れを選ぶのである。
“ひとつの季節だけには とまっていられない
風をみつけた男は 夢を追いかけてく”
現在では、アイドルに恋愛禁止を課すことの是非は問われるだろうが、聖職者のように、分け隔てなく民衆に奉仕するためには、自分の小さな幸せは諦めなければならいというのも一理あるのかもしれない。
“よい奥さまをおもらいなさいまし。そう私が言ったら、あの人は、薄くお笑いになり、「ペテロやシモンは漁人だ。美しい桃の畠も無い。ヤコブもヨハネも赤貧の漁人だ。あのひとたちには、そんな、一生を安楽に暮せるような土地が、どこにも無いのだ」と低く独りごとのように呟いて、また海辺を静かに歩きつづけたのでした”(太宰治『駈込み訴え』)
これが、男のロマンってやつだろうか…
しかし、この曲は、独特の言葉のセンスで、じめじめした感じを与えない。
“はじめて逢った頃は 子供のようだった
夏も遠い砂浜 無邪気にふれあった”
そんな経験ないけれど、その光景が目に浮かぶようである。流石である。
全盛期の田原俊彦の確かな技術に裏打ちされたパフォーマンスも流石である。