『シド・アンド・ナンシー』 アレックス・コックス 監督 ゲイリー・オールドマン、クロエ・ウェッブ 出演

セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスとその追っかけ、ナンシー・スパンゲンを題材にした映画『シド・アンド・ナンシー』。
どれ程事実に忠実なのか知らないし、セックス・ピストルズの曲もほとんど知らないので、実話を元にした一つの創作として、見てみた。この映画を見る人が生きて来た時代背景や、パンク・ロックに対する思い入れによって、印象は違うのかもしれないが、率直に言ってドタバタ劇を見せられたような感じを受けた。ただヤクをやって死ぬだけの話なのである。
雨宮処凛『生き地獄天国』や小池龍之介『坊主失格』のほうが、余程、狂わざるを得ないヒリヒリ感が伝わって来る。
それと、評者が、こういう年頃を通り越したというのもあるのかもしれない。狂った世界に狂った態度で応酬するというのは、若さがいるのだ。
枯れた人間には、枯れた人間なりの筋の通し方があると思った。
“みなが浴衣を着て酒を飲みかつ珍味佳肴をむさぼり食らいて酔い呆けて温泉芸者と戯れている最中、ひとり、フロックコートに威儀を正し、山高帽を被ってドイツ語で文学を朗唱する。ラテン語で「船徳」を演る。”(町田康『テースト・オブ・苦虫』)というのは、勿論、ファンシーな一例であるが、何かこう、男の傍若無人、大人の傍若無人というものがあると思っている。