本棚を整理していて出て来た書物『私の嫌いな10の言葉』。久しぶりに読み返してみて、確かに中島義道の毒舌が冴えわたっていた時代があったなと思い返した。
そして、最初の嫌いな言葉「相手の気持ちを考えろよ!」で提起される「暴走族の気持ちがわかるとは?」。私の神経を逆なでして止まないデール・カーネギー著『人を動かす』の最初の例「盗人にも五分の理を認める」と見事な対照をなしている。
デール・カーネギーの言っていることが、処世術、もっと言えば人に物を売りつけるテクニックに過ぎないのに対して、中島義道は「相手の気持ちを考えろよ!」という言葉に隠された偽善に対して、妙に本気で噛みついているところが面白い。
そして、「おまえのためを思って言ってるんだぞ!」(嫌いな言葉三個目)的な忠告に対しては、「自分の気持ちを押しつけているだけ」だと言う。
もっとも、悩めるビジネスパーソンに向かって「自分たちが売りたいものをゴリ押しするのではなくて、相手が欲しがっているものを差し出せば、契約が取れるよ」、つまりは相手の気持ちを考えるのは、結局自分の利益のためだと言っているだけのデール・カーネギーを糾弾するのは可哀相な気もするが、如何に世の中で成功するかという何にも面白くない言説が幅を利かせる二十一世紀日本の言論界において、中島義道の破壊力は今でも有効である。